イギリスにおける離婚後共同親権制度

親権の定義

イギリスでは1989年児童法(the Children Act 1989)で、親権を親責任(parental responsibility)として記載した。

Meaning of “parental responsibility”.

(1)In this Act “parental responsibility” means all the rights, duties, powers, responsibilities and authority which by law a parent of a child has in relation to the child and his property.

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1989/41/section/3

それ以前の1975年児童法(the Children Act 1975)では、親権を親権及び親義務(Parental rights and duties)と記述している。

85 Parental rights and duties.

(1)In this Act, unless the context otherwise requires, “the parental rights and duties” means as respects a particular child (whether legitimate or not), all the rights and duties which by law the mother and father have in relation to a legitimate child and his property; and references to a parental right or duty shall be construed accordingly and shall include a right of access and any other element included in a right or duty.

https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1975/72/section/85

呼称は変わったものの(1975年児童法85条は現在でも有効)、親権の定義は、1975年児童法では、法により父母が子及び子の財産に対して有する全ての権利、義務(訪問権などを含む)とされていたものが、1985年児童法では、法により親が子及びその財産について有する全ての権利、義務、権限、責任、権威とされたのみ、定義上で大きな変更があったわけではない。

www.legislation.gov.uk
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http://www.lawcom.gov.uk/app/uploads/2016/08/No.096-Family-Law-Review-of-Child-Law-Custody.pdf


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第2 イギリス(イングランド及びウェールズ)

1 離婚後の親権行使の態様

・ 離婚後も,両親のそれぞれが,子に対して親権(イギリスでは親責任 (parental responsibilities)という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する。)を行使する。なお,親権を有する者は,原則として,それぞれ単独でその親権を行使することができる。
・ 両親は,離婚時に,子が誰と住むか,子が誰といつ一緒に過ごすか,子 の養育に関する経済的な負担等,親権の行使の具体的な方法について,調 整又は取決めをする。この調整又は取決めは,(1)両親の合意によってすることができるが,合意が成立しない場合には,(2)調停による調整が行われ (2014年子及び家族法第10条),(3)調停が成立しない場合には,両 親は,裁判所に,子に関する取決決定の申立てをする(1989年児童法 第8条)。なお,裁判所は,両親の合意を促し,これにより両親間におい て合意に達し,かつ,当該合意内容が子の福祉にとって問題がないと認め られる場合には,手続を中止する。
・ 子に関する取決決定においては,子が誰と住むか,子が誰といつ一緒に 過ごすか,誰といつ面会するのかについて定められる。そのほか,裁判所 は,申立てにより,親権の行使に際して生じた又は生じ得る特定の事項 (子の氏の変更等)に関する決定や禁止措置決定をすることができる。
・ 決定においては,子の意思・意見,子の身体的・心情的・教育的な必要 性,環境の変化が子にもたらす影響,子の年齢・性別・性格・生育環境, 子への危険性,子の要求に対する親の適応能力,裁判所の決定の実効性等 が考慮される(同法第1条(3))。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

・ 親権の行使について争いがある場合には,裁判所が決定をする(上記1参照)。
・ 裁判官は,決定の審理に際して,証拠に基づく事実認定をするが,その際に証拠書類だけでなく,証人尋問が行われる。証人尋問は医師や心理学者,教育学者等の専門家証人によって行われることもある。
・ 子の福祉に関するサービス(子の福祉の促進,裁判所への情報提供,当 事者に対する手続に関する助言等)を提供するCAFCASS(Children and Family Court Advisory and Support Services,司法省が所管する政府外公共機関)が,子や家庭に関する手続についての助言や支援をする。 裁判所は,CAFCASSの職員に対して,子に関する調査及び報告を命じ,その報告内容を参考にして決定をすることもできる。
・ なお,両親間での取決めや裁判所の決定に対して,両親の一方が従わな い場合は,裁判所に対して執行命令の申立てをすることができる。執行命 令に従わないと,合理的な理由を説明しない限り,法廷侮辱罪に問われ得る。

3 共同親権行使における困難事項

・ 例えば,子をどこの学校に通学させるかという問題があり得る。
・ その他,一般的に,判断が困難で,決定までに時間がかかる案件としては,(1)医療記録や警察記録の入手が必要となる事案17,(2)争点が複数あり 証拠量が膨大な事案,(3)国際的な要素を含む事案が挙げられている。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

未成年の子の有無にかかわらず,協議離婚は認められず,裁判所の決定が 必要である(1973年婚姻事件法第1条)。

5 離婚後の面会交流

(1) 面会交流についての取決め
面会交流は認められているが,判例上,親の権利ではなく,子の権利と されている。両親は離婚後も親権を保持していることから,親の責務の一 環として,子と面会交流をすることになる。面会交流は,離婚の合意又は 裁判所による子に関する取決決定に従って行われることになる(決定方 法については,上記1及び2参照)。なお,離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない18。
(2) 面会交流の支援制度
・ 両親間の対立が激しい,交流が断絶している等,何らかの理由で,両 親が子との面会交流を実行することができない場合には,CAFCA SSの家庭裁判所アドバイザーが提供するCCIs(Child Contact Interventions)を利用することができる。CCIsは,担当者による 監督の下,面会センターで子との面会を実施したり,両親に対して将来 の面会交流の調整を促したりする。
・ また,面会交流の取決決定に従わないことは,法廷侮辱罪に該当し得る(上記2参照)。

6 居所指定

親権を有する者は,原則として,他の親権者の同意なく親権を行使するこ とができる(上記1参照)。したがって,子の監護教育のために,子と共に 転居することについて,他の親権者から同意を得る必要はない。ただし,子 を外国に連れて行く場合には,法律上,親権者全員から同意を得なければな らない(1984年児童誘拐法第1条)。もっとも,1か月以内の旅行であれば,子と同居する親は,他の親権者の同意なく子を外国に連れて行くこと ができる。

7 養育費

(1) 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
離婚時に養育費の支払について取決めをすることは義務付けられていない19。
養育費の決定方法としては,両親間で合意する,公的行政機関のスキームを利用する,又は裁判所の命令を取得するという三つの方法がある。公的行政機関によるサービスは以下の三つのものがある。
ア 養育費算定のための計算式の提供
子の人数,受給している手当,収入等必要事項を入力することで,養 育費の額を自動で計算することができる計算式が提供されている。こ れにより,両親は養育費の額についての目安を知ることができ,目安に 基づき養育費の取決めを行うことが可能になる。
CMOによる情報提供
CMO(Child Maintenance Option)という行政機関において,養育 費の取決めに必要な情報提供等を行い,両親間の合意を促す。
CMSの利用(合意が成立しない場合)
CMS(Child Maintenance Service)が,養育費の取決めのみならず,所在不明となった親の探索,養育費の支払に関する法的執行力の付 与,徴収,養育費の見直し,養育費の不払への対処等を行っている。た だし,同サービスの利用には,利用料がかかることから,政府としては,CMSの利用よりも,両親の合意による養育費の取決め及びその自主的な支払又は直接徴収による方法を利用することが望ましいとしている。
(2) 養育費支払実現のための制度・援助
上記(1)ウのCMSが,養育費徴収のためにも用いられる。

8 嫡出でない子の親権

一定の事情がある場合20には,父親にも親権が認められる(1989年児 童法第2条(2)。

https://www.moj.go.jp/content/001318630.pdf